「継がないほうがいい」と、周りの全員が言っていました。
父の認知症が進んで、迷子になることが増えていました。それでも本人は認知症であることを認めず、会社を辞める気もありませんでした。会社には銀行からの借入と、個人からの借入がありました。従業員に払う給与も足りていませんでした。
この記事では、その会社をどう立て直したかという話はしません。まだ途中だからです。書きたいのは、そのときにいちばん怖かったものの正体についてです。
「継がないほうがいい」は、正しかった
危険すぎる、というのはそのとおりでした。条件だけ並べれば、引き受ける理由はどこにもありません。
ただ、誰かがやらなければどうにもならない状況でもありました。放っておけば従業員の給与が止まります。父は、自分が判断できない状態にあることを認めていませんでした。
私が引き継ぐと決めました。
勝算があったわけではありません。リスクしかない中で、なんとかやれると自分を信じるしかない、という決め方でした。
いま振り返っても、あれが正しい判断だったのかは分かりません。ただ、決めるまでは何も始まらなかったということだけは確かです。
この決断ができたのは、その前に一度、優先順位を組み直した時期があったからだと思います。そのときの話は、「こどもがかわいそう」がいちばんこたえた。育児と仕事の両立に書いています。
怖かったのは、金額ではなかった
借入の額を知ったときは、もちろん驚きました。でも、いちばん怖かったのはそこではありませんでした。
目の前の数字が、何を意味しているのか分からないこと。そちらのほうがずっと怖かったです。
金額が分かっていれば、少なくとも「どうにかする方法を探す」には進めます。分からないと、探し始めることすらできません。
最初は、本当に何もかもが分かりませんでした。決算書も、契約書も、従業員との取り決めも。長く勤めて会社に依存していた高齢の従業員がいました。古くて売れない不動産もありました。どれも、どう扱えばいいのか分かりませんでした。
ひとつずつ調べて、整理するしかなかった
やり方らしいやり方は、ありませんでした。
分からないものを、ひとつずつ調べて、整理していく。それだけです。決算書の項目をひとつ調べ、契約書の条項をひとつ調べ、従業員との取り決めをひとつ確かめる。
効率のいい方法を探している余裕はなかったので、目についたところから順に潰していきました。
続けているうちに、「これは調べれば分かること」と「これは人に聞かないと分からないこと」の区別がつくようになってきました。最初は、その区別さえできませんでした。
分からないことの量そのものは、すぐには減りません。それでも、輪郭が見えるだけで動き方は変わります。
わからないことに、人はつけこむ
あまり書きたいことではありませんが、書いておきます。
分からないままでいると、そこにつけこんでくる人がいます。
味方が誰もいない状態で、なんとか打開しようとしていた時期、それが毎日、24時間続きました。
そのとき思ったのは、原因は相手のほうではない、ということでした。私が分かっていないこと。それが全部の原因でした。
だから、自分が知識をつけるしかありませんでした。
このとき、以前に取っていた資格が思わぬところで効いてきました。その話は、使わなかった資格が効いた日。簿記2級を取って数年後のことにまとめています。
それでも、終わりは近づいている
会社の借金整理は、いま完了間近まで来ています。
途中でうまくいったコツのようなものは、正直ありません。
やるしかない。めいっぱい、めいっぱいやる。そして自分を信じる。
書いてみるとずいぶん精神論に見えますが、そのときの実感としてはこれがいちばん近いです。仕組みも知識も必要でしたが、それを積み上げる時間を持ちこたえるためには、こういうものが要りました。
渦中にいるときは、こういう話は書けません。まだ結論が出ていないことを、人に渡せる形にするのは難しいからです。
抜けかけている今だから言えることがあるとしたら、時間はかかるけれど、終わりはあるということです。
いま先の見えない不安のほうが大きい方は、生活防衛資金はいくら必要?貯金額より先に考えたいことから見てみるのも自然だと思います。
今日はひとつだけ
「だからお金の勉強をしましょう」とは書きません。必要になっていないものは、続かないからです。
かわりに、ひとつだけ。
家族のお金について、自分が何を知らないかを1行だけ書き出してみる。
「親の年金額を知らない」「実家に借入があるか知らない」。それくらいで構いません。
調べなくて大丈夫です。今日は書き出すだけで十分です。知らないことが見えている状態と、見えていない状態は、いざというときにかなり違います。
まとめ
・怖いのは金額より、数字の意味が分からないこと
・分からないままでいると、そこにつけこまれることがある
・やり方が見えなくても、ひとつずつ調べて整理することはできる
・時間はかかっても、終わりはある